私はこれまで、多くのシングルマザーの方から未払い養育費の問題について相談を受けてきました。
その中でも「養育費の強制執行はどうすればいいんですか?」という相談が非常に多くありました。

強制執行をやる前にすべきこと
いきなり「強制執行で回収!」という前に、まずは、相手への確認と督促をやってみて下さい。
忘れているだけかもしれないし、一度連絡することで支払いが再開する場合もゼロではありません。
電話やメールで「今月分の養育費が未入金です」と伝えるだけでも、相手がハッとして慌てて支払ってくることもあります。
「まさか本当に払わないつもり?」と問いかけてみる価値はあると思います。
ただし、話し合いが難しい相手や連絡が取れない場合は、この段階で執着しすぎないことも大切です。
ここで無理に感情的なやりとりを続けても疲弊するだけです。

強制執行の基礎知識について
「もう強制執行しかない!」そう決意したものの、何から始めれば良いのか分からず戸惑っていませんか?
差し押さえの手続きを前に、頭の中がグルグルと混乱するのは当然です。
私自身、駆け出しの頃は手順を把握するだけで一苦労でした。
しかし、一つひとつ整理すれば怖くありません。

1、債務名義の確認
強制執行をするには、まず「債務名義(さいむめいぎ)」という書類が必要です。
債務名義は、裁判所や公証役場が発行する「養育費を支払うべきだという証明書」のようなもので、これがないと強制的に相手からお金を回収することはできません。
具体的には調停調書や確定判決、公正証書(強制執行認諾文言付き)などが該当します。
具体的な養育費の支払いについて定めた離婚協議書にしていればバッチリです。
ただの口約束や当事者同士のメモ書きでは法的強制力が無く強制執行は出来ません。

2、差し押さえる相手の財産について確認
債務名義が整ったら、次は相手のどの財産を差し押さえるかを考えます。
強制執行には差し押さえる対象に応じて大きく3種類あります。
不動産執行(土地建物の競売)、動産執行(車や貴金属などの差押え)、そして最も利用される債権執行です。
養育費の回収では通常、相手の給料や預貯金といった「債権」を差し押さえる場合がほとんどです。

特に給与債権は効果的で、相手が勤務先を辞めない限り、一度の申立てで継続的に差し押さえが可能になります。
民事執行法の改正により、未払い分だけでなく将来の分もまとめて差し押さえできる特例(同法151条の2)が認められているためです。
例えば月5万円の養育費が6ヶ月滞納されている場合、未払いの30万円分だけでなく、これから毎月発生する5万円も継続して給与から天引きさせることができます。

費用と手続きの流れについて確認
強制執行の申立ては、相手の住所地を管轄する地方裁判所に行います。
家庭裁判所ではないので注意して下さい。
申立書に債務名義正本を添付し、その他書類(送達証明や住所の証明書類など)を揃えて提出します。
裁判所に納める手数料は収入印紙で4,000円、さらに郵便切手代が第三債務者1社(例:勤務先1社)なら約3,000円分必要です。

手続き自体は、「申立書を窓口提出(郵送可)」⇒「裁判所が内容審査」⇒「問題なければ債権差押命令が発令」という流れです。
命令が発せられると、債務者本人と勤務先など第三債務者に裁判所から郵送され、給与差押え命令なら会社は従業員への給与支払いの一部停止を行います。
その後、差し押さえられた給与の中から未払い養育費分を債権者(あなた)に支払ってもらう、という段取りです。

ココがポイント
ポイントは、事前準備と迅速さです。
申立て前に相手の最新の勤務先や収入状況をできるだけ確認しておきましょう。
「離婚当時の職場から転職していないか」、「給料は変わっていないか」、「他に副業収入がないか」こうした情報収集が成功率を左右します。
強制執行(差し押さえ)を迷っている方へ
「本当に財産を差し押さえてしまってもいいのかな…」と迷う気持ちもあると思います。
子どものためとはいえ、元パートナーの財産に手を出すのは気が引ける。
そんな葛藤も、依頼者の方々からよく聞きます。
それでも、支払いを拒まれている以上こちらも生活がかかっています。
感情的なしこりは残るかもしれませんが、私はいつも「お子さんの権利を守るための正当な手段ですよ」と背中を押しています。
とはいえ、差し押さえにも色々な種類があるので、状況に合わせた選択が必要です。

給料(給与債権)の差押え
もっともオーソドックスで成功率が高い手段です。
養育費の場合は、給与の手取り額の2分の1まで差し押さえ可能という特別ルールが適用されます。
例えば月収手取り20万円なら、その半分の10万円を上限に天引きできる計算です。
しかも相手が転職しない限り将来の支払い分も継続して押さえられるので、長期的な安定が期待できます。

最初は「まさか本当にやるとは…!」とAさんも驚いたようで、「一部を一括で払うから取り下げてほしい」と交渉を申し入れてきました。
結果的に、未払い約200万円のうち8割に当たる160万円を一括回収することに成功しました。
相談からわずか3か月で解決し、Dさんは「肩の荷がおりた」と安堵の笑みを浮かべていました。
給料差押えの強みは、このように相手に心理的プレッシャーを与え、支払い交渉を有利に進められる点にもあります。
ただしデメリットもあり、相手が会社を辞めてしまうリスクは常につきまといます。
実際、別の依頼者Bさんの元夫は差押え命令送達後に激昂し、その勢いで会社を退職してしまいました。
こうなると差押え効力は止まってしまい、また一から情報収集が必要になります。
差押えはどうしても相手の感情を刺激しやすいので、慎重に判断する必要があります。

お気軽にご相談下さい。
預貯金の差押え
相手の銀行口座を凍結し、その預金から未払い分を回収する方法です。
相手にまとまった貯蓄がある場合や、ボーナス直後などは有効打になります。
また給与と違い、一度の命令で全額(未払い額まで)差し押さえ可能なので、例えば未払いが50万円なら口座残高が50万円に達するまで全てロックできます。
私の経験では、元夫が自営業などで給与差押えが難しい場合に預金差押えを狙うことがあります。
ただ難点もあり、相手の口座情報を特定するハードルが高い点です。
銀行名・支店名まで分からないと申し立てができませんし、複数口座を持っているかもしれません。

どうやら支払いを止めた時点で別の新しい口座に資金を移していたのです。
「しまった、してやられた!」とこちらも悔しい思いをしましたが、この失敗から学びました。
現在では裁判所を通じて第三者から情報取得できる制度が整備され、銀行に相手名義の口座照会をかけることも可能になりました。
私も早速この制度を利用し、別口座を特定して差し押さえに成功したケースがあります。
裁判所の手続きにはなりますが、隠し口座を暴く心強い武器です。

不動産や動産の差押え
相手が持ち家や土地を持っている場合は、不動産執行(競売)という選択肢もあります。
ただ、家を競売にかけるのは現実的にはハードルが高いです。
ローンが残っていたり、競売しても配当がわずかだったりと手間の割に見返りが少ない場合が多いためです。
また時間も費用もかかるので、他に方法がない最終手段といえます。
一方、動産(車やバイク、貴金属など)の差押えも可能ですが、こちらも実務ではあまり行われません。

私も過去に「高級外車を持っている元夫から養育費を回収したい」という相談を受けたことがあります。
確かに車を競売にかければまとまった額が見込めそうでしたが、調べるとローン残債が多く残っており、競売しても赤字になる計算でした。
そこで発想を転換し、その元夫の高級外車のローン支払い状況から勤務先の金融機関を割り出し、結局は給与差押えで解決しました。

強制執行に掛かる費用が不安な場合は
強制執行に踏み切りたいと思っても、気になるのがお金の問題だと思います。
「弁護士に頼んだら高額な費用がかかるのでは?」「手続き費用を払う余裕なんてない…」など、経済的な不安で二の足を踏んでいる方も多いと思います。
自分で手続きをする場合でも印紙代や切手代など実費が数千円単位で必要になります。
加えて、勤務先の商業登記簿謄本(資格証明書)取得に数百円、郵送代など細かな費用も積み重なります。
正直、手続きの書類準備は煩雑で時間もかかるため、専門家である弁護士に依頼する方が安心ではあります。

これについては各事務所によって料金体系が異なりますが、当事務所では「着手金無料・成功報酬型」を採用しており、養育費の強制執行に関しては「回収額に応じた報酬だけを頂くプラン」もご用意しています。
この場合、もし回収できなければ弁護士費用は基本的に発生しません。
事務手数料等は別途かかる場合がありますが、大きな負担にはならないよう配慮しています。
実際に依頼者からは「費用面のハードルが下がり、お願いしやすかった」とのお声もいただきました。
